形作るためのガイド

あなたは伝言ゲームをしたことがありますか。1人がフレーズを選び、それを次の人にささやいて、列の最後の人が何を聞いたか言うゲームです。最後の人が聞いたフレーズは、最初の人が聞いたものとはほとんど似ていないことが多いのです。では、アーティストにあるものを描いてくれと頼み、次に別のアーティストに同じものを1つ目の作品に基づいて描いてくれと頼んだらどうなるか想像してみてください。そして3人目のアーティストに2つ目の作品を基に描いてもらい、そして4番目、5番目…と続いていきます。それぞれのアーティストが独自の持ち味とスタイルを作品に出すことで、変化がどんどん起こり始めることが想像できるでしょう。

アーティストにはそれぞれ個性がありますし、それは素晴らしいことです。ただ、それは一貫性を持たせる必要があるときには、あまり役に立ちません。そこでスタイルガイドの登場です。もしあなたが少しでもマジック:ザ・ギャザリングをプレイしたことがあるのなら、ジェイス・ベレレンというキャラクターを知っているでしょう。彼はそのトレードマークでもある衣服、具体的に言うとマントとそのデザインで知られています。

左から右:ジェイス・ベレレン( Aleksi Briclot )、ジェイスの誓い( Wesley Burt )、思考を築くもの、ジェイス( Jamie Jones )

左から右:ジェイス・ベレレン(Aleksi Briclot)、ジェイスの誓い(Wesley Burt)、思考を築くもの、ジェイス(Jamie Jones

これらすべての絵画はジェイスだと分かりますが、それぞれのアーティストのスタイルで描かれていて見事です。アーティストが、2007年に印刷されたAleksi Briclot氏のジェイスの外見をそのまま繰り返し使うこともできたでしょうが、もしジェイスの風貌が急に変わっていたらどうだったでしょうか。イニストラードを覆う影のセットで、ジェイスはゴシックホラーがテーマの次元に合うように、新しい装備品を手に入れました ー 彼のマントのデザインに似た、皮のダスター・コートです。

左から右:ジェイスの精査( Slawomir Maniak )、秘密の解明者、ジェイス( Tyler Jacobson )、タミヨウの日誌( Chase Stone )

左から右:ジェイスの精査(Slawomir Maniak)、秘密の解明者、ジェイス(Tyler Jacobson)、タミヨウの日誌(Chase Stone

しかし、どうしてアーティストはマントを他のものとそっくりに描けるのでしょうか。もし、アーティストが既出のジェイスの全作品に基づいて作業するのではなく、新しい皮のコートを纏ったジェイスについて、明確で詳細な説明を与えられたらどうでしょうか。それぞれのアーティストが作品を描くために詳細なイメージを持っていれば、様々な異なる解釈はなくなるでしょう。これがスタイルガイド、場所についてより詳しいものはワールドガイド、の目的です。それはアーティストに与えられる資料で、イメージや場所、人種、物体やキャラクターについて詳細に書かれており、作品を依頼するときに渡せば、作品は一貫性があり見る人がそれだと認識できるものになります。

もしあなたが幸運にも、昨年9月に日本で開催された25周年マジック・アートショーに行っていたら、あなたはウィザーズ・オブ・ザ・コーストのスタッフを除いて、ワールドガイドを目にした数少ないラッキーな人です。ネタバレを防ぐため、ワールドガイドは大半が隠されて編集されていましたが、ラヴニカのワールドガイドが公開されていたのです。一般向けには、ガイドのごく一部が以前から公開されていましたが、それはウィザーズのスタッフの記事を通してや、アーティストやマジックアートの本を通してでした。

マジックの歴史で最初の何年かは、スタイルガイドは存在しませんでした。1997年のテンペストブロックで、スタイルガイドが初めて使われました。そしてスタイルガイドは、クリエーターが使うために、ストーリーとコンセプトアート、ブランド情報が混ざったものになりました。ストーリーは、そのセットでどの人種や場所が重要となるかなどの設定を示しています。コンセプトアートプッシュでは、何人ものアーティストが協働して、できる限り多くの素材を創り、その中の良いものがスタイルガイド用に集められます。最後にブランド情報ですが、これはゲームとしてのマジックに関する情報で、どのように色が作用し、相互に影響し合うかについて書かれています。

ミラディンの吸血鬼のコンセプトアート( Richard Whitters )

ミラディンの吸血鬼のコンセプトアート(Richard Whitters

イクサランのアートを指揮をしたCynthia Sheppard氏は、イクサランのワールドガイドにおけるアート解説の責任者でした。イクサランのアートブックの巻末で、Cynthiaはワールドガイドについて言及しました。ワールドガイドは最終的に208ページにもなり、アーティストやライターがイクサランの次元の素材を創り始めるために必要な情報が全て入っていたといいます。皆さんが目にするマジックアートブック中の文章のほとんどは、ワールドガイドの“洗練されて磨かれた”バージョンだ、と彼女は言います。ワールドガイドには、私たちが知り得ないような、より深い詳細が記されているのです。イクサランの人間たちは、同じグループに属する太陽帝国の人間と同様に、銀色の衣服のみ身に着ける、とCynthiaは説明しています。これは、金色を多く纏う吸血鬼と見た目で差別化する目的があり、そして黄金都市オラーズカの支配を失ってから太陽帝国の人々が金の衣服を着るのを諦めたことともつながっています。そのことはどのカードにも書かれていませんが、イクサランの衣服に関する興味深いストーリーです。

イクサランのコンセプトアート( Tyler Jacobson と Chris Rahn )

イクサランのコンセプトアート(Tyler JacobsonChris Rahn

すでに言及しましたが、コンセプトの段階はマジックのゲームの中で私のお気に入りの1つです。私はいつもスタイルガイドに魅了されてきました。そこには私たちが普段見ることのできない、ゲームに関するたくさんのものがあるからです。もし私たちがそれらを見ることができたとしても、それはごく一部でしかありません。なぜなら、ジェイスの衣装が変わったら認識できなくなるのではないか、などと私たちが心配する必要がないくらい、作品は非常に円滑に創り上げられているからです。したがって、衣服や人種、場所、アイテムなど全てが具体化される必要があります。それは、マジックのセットが出るときに100人もの人々が携わっていたとしても、セットのアートとストーリーに一貫性を持たせるためです。

今回の記事は、私のお気に入りのコンセプトアートの1つをお見せして終わりにしたいと思います。これは、ローウィンのセッティングで主な人種の身長を示したものです。マーフォークが巨人と比べてどれくらい大きいのか、キスキンが炎族よりどれくらい小さいのか、などを誰かが考える必要があったのです。カードになる絵にアーティストが独自の持ち味を加える以前に、どれだけのことが舞台裏で起こっているのか十分理解するのに、しばらくかかりました。マジックアートの舞台裏に興味がある人にとっては、これまでにない報われた気持ちになるでしょう。私はここ数年、アーティストやウィザーズが出したコンセプトを多く見てきました。コンセプトはいくらか出回っているので、あなたのお気に入りのセットがどのように生まれてきたのか知るために、より深く調べてもらえれば幸いです。

ローウィンのコンセプトアート( Steve Prescott )

ローウィンのコンセプトアート(Steve Prescott